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Ink Spots [Sly Stone②]


 

前作「スタンド!」とそれまでのベスト盤と比べ、籠った音の奥で唸るようなスライのボーカル、ネガティブを思わせる歌詞、今までのバンドの平和的な印象からは程遠い暗い雰囲気がアルバム全体から漂っています。

 

世界が一つになって平和を願った形のイベント「ウッドストック」から二年の間、スライに何が起こったのか。

スライの理念をよそに、アメリカはそれでも歪んでいて黒人達への差別は完全には無くならない。
それどころかベトナム戦争は終わることなくアメリカは戦場に兵隊を送り続ける。

 

音楽で世界は平和にすることはできなかったのです。

スライは恐らく自分の信念が報われないことで、自分がまるでピエロのようだと感じたのではないでしょうか。
スライのドラッグの量は増えるばかりで、その影響からスライは自分の家族と友達からなるファミリーストーンのメンバー達さえ信用できなくなっていきます。

ベーシストのラリー・グラハムは自分を出し抜いてバンドを乗っ取ろうとしている。
弟のフレディ・ストーンは兄に負けないようにと躍起になってドラッグをやり続けている。
トランペットのシンシア・ロビンソンとの間には私生児を授かるが結婚はしない泥沼関係。

 

これらの問題が先か、ドラッグのために問題が起きたのか、とにかくスライは混沌とした自分の世界の中で苦しみ続けて「暴動」を作り上げます。

皮肉にもこのアルバムは時代を完璧に表した名盤になりました。
前作「スタンド!」にあった前向きなエネルギーは影を潜めますが、やはり当時の他の誰も作れないファンクを完成しています。

 

音がモコモコと隠って聞こえるのは、スライがドラッグをやり適当に知り合ったファンの女と関係を持ち、「俺のレコードで歌ってみなよ」と録音したものを翌日には正気に戻って削除するなどを繰り返したせいだと言われています。

僕はこの隠った音こそが「暴動」の一番大きな要素だと思います。
時代とスライ、どちらも混沌としていたのです。この音質こそが、何よりも時代を表現しているのではないでしょうか。

 

ジャズの帝王マイルスデイヴィスは従来のジャズからの脱却を目指し、その答えとしてジェーム・スブラウン、ジミ・ヘンドリクス、そしてスライ・ストーンを挙げていました。

マイルスはジミ・ヘンドリクスとのレコーディングセッションの予定をジミの死によって逃します。
そしてスライに会ったマイルスは次のように語っています。

「やつはただのヤク中だった。ミュージシャンとして最低だ」

 

スライ&ザファミリーストーンは、ドラッグで幻覚を起こしたスライがラリーとの口論の末にラリーに拳銃を突きつけたことで崩壊します。
その後はメンバーが入れ替わるのを続ける名前だけのファミリーストーンと共に、何度も「復活劇」を演じるのですが、スライが持っていた飛びっきりの魔法はここまでで終わりです。

 

スライについては特別な思い入れがあるので、あと一回だけスライについてのコラムを書きたいと思います。

 

しまった、普通のアルバムレビューのようになってしまった…ついつい真面目な本当の自分で書いてしまったなぁ!

嘘です。
ではまた。





oishiyuライター: 大石 悠
 鍵盤奏者。幼少の頃から両親の影響でレコードを愛聴。特に生前の時代である60年-80年代のブラックミュージックシーンに魅力され、人間味のある泥臭くもパワフルな演奏スタイルを持つ。即興ジャムオルガントリオ"MYM",他セッション、サポートでも活動中。

― 連載コラム:Ink Spots ~All about JAZZ I think~ ―
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