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Ink Spots [Robert Johnson]


 

僕の好きなブルースイメージのひとつに、W.C.ハンディという人のこんなエピソードがあります。

作曲家のハンディがある日、道端で一人の黒人がギターを弾いていたそうです。
その男はハンディがいままで聴いたことのないような音楽を奏でていて、アコースティックギターの弦をナイフで擦りながら歌っていました。
同じ歌詞を二回歌い、続いてもう一行歌う、といったそのスタイルを聴いたハンディは世界で初めて「ブルース」から影響された曲を作曲しました。
世界は初めてブルースが楽譜になってブルースを知り、それは12小説の進行が繰り返されるもので、以後様々な人たちがブルースの形式を会得していきます。

しかしハンディが聴いたその黒人の名前も素性も誰も知らないものであり、ブルースはそれまで黒人の間のみで歌い継がれてきたものだったのです。

僕がグッと来る瞬間というのが、
ハンディが通りかかった道端で黒人の男がナイフでギターを擦り、全く未知の音楽を歌っている。

このシーンほどいまの音楽にとってドラマチックな場面はないのではないでしょうか。
なぜなら僕たちが耳にするポップスやロックはロックンロールという音楽に直帰し、ロックンロールは完全に直接ブルースに帰依しているからです。

ハンディの書いた記憶だけが頼りの新曲によって、ブルースの独自性が広く知られ、脈々と受け継がれたアメリカ南部の黒人音楽がエルヴィスを生み、ビートルズを生み、いま僕たちが楽器を弾いたり歌を作ったりすることに繋がったのです。

ロバート・ジョンソンが影響を受けたロニー・ジョンソン、ブラインド・ブレイク、サン・ハウス、世界で最初にブルースを録音したチャーリー・パットン、いまから100年以上前の出来事が僕たちの現在の音楽に対する関係性を形作っているのです。

ブルースは月のような存在で、夜にだけ輝く切っても切れない関係なのです。
もしあなたがブルースなんか興味がなかったとしても、ブルースは100年前と同じようにあなたの周りにあるのです。

奴隷としてアメリカに連れてきたアフリカ人は、悲しい歴史と同時にアメリカの音楽史に美しい軌跡を残してくれたのです。

こんな日はブルースを聴いてみて、古きよき日、それよりもさらに昔の景色を想像してみるのはいかがですか?

綺麗にまとめられました!

おしまい





oishiyuライター: 大石 悠
 鍵盤奏者。幼少の頃から両親の影響でレコードを愛聴。特に生前の時代である60年-80年代のブラックミュージックシーンに魅力され、人間味のある泥臭くもパワフルな演奏スタイルを持つ。即興ジャムオルガントリオ"MYM",他セッション、サポートでも活動中。

― 連載コラム:Ink Spots ~All about JAZZ I think~ ―
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