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Ink Spots [Hermeto Pascoal]



 

僕が数年前に渋谷で見たライブも素晴らしかったです。

ステージ上はジャングルのように植物が大量に置かれ、バンドネオンや10弦ミニギター、シンセサイザー、ヤマハCP-80、テナーサックスが並んでいました。

一際目を惹いたのは、高いスタンドから紐で吊り下げられた調理用のお玉やフライパン。これらはパーカッショニストが叩いていました。

エルメートーはヤマハDX7を操ったり時にはサックスを吹いたりフルートを吹いたり、ヤカンを吹いたりしていました。

またこのヤカンが傑作で、ヤカンの注ぎ口にトランペットのマウスピースが差し込まれていて、それに口をつけて歌う音を、水を入れる蓋の部分からマイクで拾うという代物でした。

なんだかこもった音になっていましたが、恐らくこの仕組みでしか出せない音だったのでしょう。独特な雰囲気でした。

このときに記念で購入したエルメートーTシャツには「Everything Is Music」と書かれたやかんを吹くイラスト付きのものでした。

 

ブラックとの関係は、マイルスのアルバム「Live-Evil」に参加しているのが有名です。

黒人として、アメリカ人としてジャズを開拓してきたマイルスが、アルビノのブラジル人を起用した音源は、他のどんなコラボレーションとも意味が違っている気がします。

さて、白人ミュージシャンとのエルメートーコラボで好きなのは、75年のベルリンでの、ブラジルの天才エグベルト・ジスモンチとのライブ音源で奇声を発したりフルートを滅茶苦茶に吹いたりするやつです。どうも僕はフルートに弱いようです。

天才と奇才の共演!ジャズもクラシックもブラジルもごちゃ混ぜのフュージョン。そこに美しいメロディがのっかれば全部オッケーなのです。お腹をペチペチ叩くエルメートーもフルートで美メロ&鳥の鳴き声を吹くエルメートーも僕は大好きです。

 

以前も書いた、音楽が景色を見させる効果はアフリカ系はもちろん、このエルメートーも流石です。

太鼓が、ピアノが、フルートが滅茶苦茶な演奏をしているときに、密林の中を探検しているような映像が見えてきます。

鳥の鳴き声や木々のざわめきや見たこともない猿や河を喚起させる音楽は、いわゆるアフリカ起源の人類学的な意味(原始へのノスタルジー)とは違い、計算された音の積み重ねの効果で演出されたイメージだと思います。

皆様もラテンやボサノバに飽きたら、ひと味もふた味も違う、むしろ食べたことのない味を持つ、いやむしろ見たことのないルックスの食べ物を試食するようにエルメートー・パスコアールを聴いてみてはいかがでしょうか。

アルビノの人が聴いた音の世界は我々の聴いている現実の音よりもはるかに緻密で複雑なのです。

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おしまい





oishiyuライター: 大石 悠
 鍵盤奏者。幼少の頃から両親の影響でレコードを愛聴。特に生前の時代である60年-80年代のブラックミュージックシーンに魅力され、人間味のある泥臭くもパワフルな演奏スタイルを持つ。即興ジャムオルガントリオ"MYM",他セッション、サポートでも活動中。

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