村上春樹とジャズ [羊をめぐる冒険④]
ジャズと関係が深い日本を代表する小説家 村上春樹。彼の作品から、ジャズやソウルフルなブラックミュージックなどが登場する小説を紹介しつつ音楽と共に楽しんで下されば幸いで御座います。青春三部作の三作目、 羊をめぐる冒険(下)からもう何曲か紹介しましょう。
「音楽は思想ほど風化しない。僕は真空管アンプのパワー・スイッチを入れ、でたらめにレコードを選んで針を置いてみた。ナット・キング・コールが『国境の南』を唄っていた。部屋の空気が一九五〇年代に逆戻りしてしまったような感じだった」135頁
フランク・シナトラ- South Of The Border
ナット・キング・コールは「国境の南」を録音として残していなのです。ですからここではフランク・シナトラの録音を貼っておきます。
小説では、いなくなった友達を探しにその友達の家を突き止めるシーンです。
家に上がり、レコードを選んで針を置く。存在しない録音が流れることがまるで何かを示唆しているようです。
そこを解釈しなくとも物語は進みますが、もしかするとナット・キング・コールの国境の南はちゃんと意味を含んでいるのかもしれません。
ナット・キング・コール-ROUTE 66
ナット・キング・コールは30年代から60年代まで活躍した、スウィング・ジャズ時代末期で傑出したピアニストです。ピアノ、ギター、ベースのシンプルな編成からなるトリオを結成し、トリオバンド流行の火付け役となったそうです。
影響はジャズだけにとどまらず、ロックの殿堂にもアーリー・インフルエンス(初期の影響)部門で殿堂入りを果たしています。日本では美空ひばりがファンとして有名だそうです。
フランク・シナトラの「国境の南」を聴くと、ナット・キング・コールが演奏した「国境の南」はどんなアレンジになっていたのでしょう。この二つの音源を聴き比べただけでは想像がつきません。
そんなことを考えながら、存在しない音楽を流す小説を読むことも、楽しみ方の一つではないでしょうか。
ライター: 山本 春町 映像クリエイター/ミュージシャン/ライター こう見えても文学少年。 下ネタ大好き。変なやつ。 http://harumati.jimdo.com/
― 連載コラム:村上春樹とジャズ ―
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