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村上春樹とジャズ [風の歌を聴け②]


ジャズと関係が深い日本を代表する小説家 村上春樹。彼の作品から、ジャズやソウルフルなブラックミュージックなどが登場する小説を紹介しつつ音楽と共に楽しんで下されば幸いで御座います。前回に引き続き村上春樹のデビュー作「風の歌を聴け」から1曲。

 

M・J・Q- Django

89頁に登場するこの曲。村上春樹の小説ではセックスシーンが幾つも存在し、その数は相当なものです。このシーンでは主人公がある女性とディナーを楽しんでいるところで、彼女は乳首の見える薄いシャツにゆったりとしたショートパンツを履いていて、お互いの足がテーブルの下で幾度もぶつかるというベッドシーンを暗示させる文章です。でもここではセックスをしません。主人公は初対面にして彼女の信用を失ったので、彼女の信用を取り戻すために何もしなかったのかもしれません。又はディナーをただ単純に楽しみたかっただけかも?

そこで流れるM・J・QのDjangoが切なげに流れるのです。

M・J・Q(モダン・ジャズ・カルテット)は1952年にアメリカで結成されたジャズバンドで、1974年までにアルバムを6枚出しました。寡作なバンドと言えるでしょう。

ビバップやスウィング時代のスタンダードナンバーを演奏し、緻密で繊細なクールサウンドなのが特徴です。ブルージーな部分も残しつつ、知的な室内クラシック音楽の様な華麗な音楽は幅広い層に評価されました。

1940年代はスウィングジャズに反発する音楽人によって即興演奏を主体としたビバップが生まれ、チャーリー・パーカーらが活躍した時代で、その流れをくみ、クールジャズやその後のモダンジャズへと進化を遂げていきます。

M・J・Qは温故知新でありながら、解釈のしかたが静かでクールです。
ヴィブラフォンと呼ばれる鉄琴の一種が雰囲気をいい具合に冷やし、クラシックの室内音楽とはまた違った印象を与えます。あくまでもジャズの上でなっているというところが知的な印象と、情熱を冷やしすぎないバランスに保ちます。

ヴィブラフォンを演奏するメンバーのミルト・ジャクソンは世界中に今も多くのファンを持ち、また彼の演奏スタイルは後のヴィブラフォン奏者に多大な影響を残しました。
大きなヘッドを持つ独特のマレットを使った音色はジャズヴァイブの代名詞とされているほどです。

雨の日に、少し心を落ち着かせたい時に聴くと、とても日常に溶け込みます。
「ぬるい」ではなく、冷たさと温かさを併せ持つM・J・Q。気になった方は是非。

 

余談ですが、1984年にタモリとM・J・Qが共演しています。タモリのトランペットのレベルはアマチュアレベルです、が、無類のジャズファンであるタモリの緊張と敬意が見られ、M・J・Qのレベルの安定感も見られますので、Youtubeで「タモリ MJQ」と検索してみるのも面白いかもしれません。





harumatiライター: 山本 春町
 映像クリエイター/ミュージシャン/ライター
こう見えても文学少年。
下ネタ大好き。変なやつ。
http://harumati.jimdo.com/

― 連載:村上春樹とジャズ ―
・ 村上春樹とジャズ [風の歌を聴け①]


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