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『日本→ポルトガル→韓国→見えるもの』ーコンピレーションアルバム「T(h)ree」



■experimentalの平野から

音には様々なものがある。聞きやすい音、聞きにくい音、声、ピアノ、金管楽器、人のざわめき、街角の音、テレビのノイズ、やかんが湯を湧かす音。それら全てのものが全て意味をもった音楽だと考えてみる、世界はもっと楽しいものに見えるようになるはずだ。世界にはそういったさまざまな音に対して敏感に反応を起こし、音楽へと変換していくことで自分の世界を伝えていっている人間たちがそこかしこにいる。
日本も例外ではない。日本の各地で全てを音楽にしてしまいたいという欲求をもったたくさんのアーティストが、今日も日本各地のライブハウスなどで自身の音の実験を繰り広げている。世界基準ではこういった音楽のことをexperimental music(実験的な音楽)と形容することが多い。OUT of JAZZの見識をもった読者の皆様なら、こういった音楽を御存知の方も多いだろう。まだ見ぬ明日の音楽の平野を切り裂くための音楽を想像している。そんな彼らがその地から見ているものは、いったいどんな世界なんだろう。

 

■拝啓ポルトガルより

three_image00ポルトガルから案内状が届いたのは去年のことだった。ポルトガルのNGO団体FUNDCAO ORIENTE MUSEUより、コンピレーションアルバムへの参加要請が届いた。ポルトガルにてexperimental musicの新星を探し求め続けている音楽プロデューサー、David valemtinが指揮をとり制作するコンピレーションアルバムへの参加要請である。彼は今までポルトガル、香港、マカオの三ヶ国のアーティストに呼びかけをし最初の作品を、次にポルトガル、フィリピン、シンガポール三ヶ国のアーティストに声をかけ二作目を作った。今回はポルトガル、韓国、日本の三ヶ国での制作。この全てのアルバムは三枚組みということで「T(h)ree」という名前が付けられている。
彼は非常に良い耳を持つ音楽マニアらしく、日本から参加したアーティストも鋭角な感性を持つくせ者揃いだ。

 

■東の国からこんにちは

日本からのこのアルバムへの参加アーティストの経歴、演奏スタイルは多岐に渡る。空間の色彩を変えるような独特な感覚を持ったアーティストが揃っている。

three_photoまず1989年にジャパノイズを代表するバンドの一つ、C.C.C.C.を結成し、その後ASTRO名義でソロ演奏ユニットとして活動をしているHiroshi hasegawa。
非常階段などの雑音即興演奏活動(気になる活動!)を続け、最近ではmn等ユニットやソロでの活動も行うT.Mikawa。
カリフォルニアでの30年以上の活動ののち、現在日本でパーカッショニスト、サウンドアーティストとして活動を続けるマルコス・フェルナンデス。
21世紀初頭に職業音楽家歴20年を超える三人で結成され、作曲録音を即興一発で行うバンドUltra3Q。
日本琵琶のフィールドを軸とし、流派やジャンルを超えた活動を続ける大久保旭夏。
サイケデリックバンド光束夜、OVERHANG PARTYのベーシスト、そしてソロでの活動もこなし、欧州にもその活動の幅を広げるSachiko。
伊豆諸島の孤島青ヶ島より、伝統太鼓や島唄をルーツとしライブやワークショップを続ける荒井康太。
コンポーザー、ピアニスト、ボーカリストであり、 T(h)reeをきっかけに発足した多国籍バンドThe Mighty Ternsではキーボードを担当するHidekazu Wakabayashi。
うねるようなビートと地をはうベースラインで自身のバンドMASのみならずリミックスやツジコノリコとの共作でも注目を集めるTyme.。
横浜でボイスパフォーマーとして活動するchu makino。
石と金だらいを使った実験的なライブ演奏も行うcalmato.。
ギターの特質を生かし、身体の電子化を試みる秋山徹次。
仙台にて活動中のボーカリストでありコンポーザーでもあるChihiro Butterfly。
また34423、Doddodo、あらいようこ、Motomitsu Maehara、JyunticAなど。

これを見ただけでも、一筋縄ではいかないアルバムなのではという予感がしてくるだろう。
このアルバムは、今までに体験したことのない音楽体験をきっとあなたに提供してくれるはずだ。

 

■クラウドファウンディングという実験

さて、今回のリリースはポルトガルで先行して行われ、その後日本、韓国でのリリースが予定されている。日本でのリリース時期は調整中だが、あなたの手元に届く日もそう遠いことではないだろう。
ポルトガルでのリリースを記念し、今年の12月リスボンにてリリース・パーティーが行われる。そこに今回日本からアルバムに参加したマルコス・フェルナンデス、大久保旭夏、荒井康太、makino chu、加えて新進気鋭のビブラフォン奏者、山田あずさが出演する。
そして日本でのリリースに合わせ、3月21日、22日に東京、六本木にあるライブハウス、スーパーデラックスで日本のアーティストはもちろん、韓国、ポルトガルから出演者を招いたライブイベントも予定されている。
この二つのイベントを成功させるため、サイバーエージェント社が行っているクラウド・ファウンディングサイト『Makuake』にて資金集めを行っている。makuakelogo
今現在のエクスペリメンタル・ミュージックを取り巻く金銭的な環境は決して芳しいものではない。
才能があり、世界的に認知もされているにも関わらずアートの分野に対して資金の援助を行う事の少ない日本企業などから、ライブや渡航などの支援を受けることが困難な状況が続いているのだ。
そこで今回着目されたのがクラウド・ファンディングによる資金集めである。日本ではまだ浸透していないクラウドファンディングによる資金集めだが、海外では地域事業、レストランの開店資金、科学的な分野における実験資金の調達、そして私たち音楽や芸術の分野でのライブイベントや、レコーディングのための資金調達など様々な分野がこの未知の資金源に着目している。
そしてなにより着目したいのが、クラウドファウンディングでの支援はけして片方から片方への支援ではなく、金銭的な支援を行った側にもちゃんとリターンが存在しているという点だ。今回『makuake』にて日本のアーティストたちが行っている資金集めのリターンは、様々なものがある。1000円から支援を行うことができ、楽曲のプレゼントや六本木で行われるライブチケットのプレゼント。実験的要素の多いexperimental musicの醍醐味を肌で感じてもらうための即興体験会への参加、そしてなんと資金提供者の好きな場所でライブを聴くことができる権利(!!)までついているのだ。
未だかつて資金提供者と受けるアーティストの側がこんなに楽しそうに対話を続ける場があったであろうか?確かにアーティスト側は必死で資金を提供してくれる者を求めているだろう。しかしこういった様々なリターンを提示して違った額での資金提供を呼びかける場をおもちゃをいじる子供のように面白くするために変えて行くことができるのだ。
『makuake』での支援は日本に住んでいる者なら誰でも行うことができるようになっている。アーティストもこの次世代の関係に参加してもらおうと様々な人に声かけをしている最中だが、できればこれをご覧になっている読者の方々にも是非支援に協力して頂きたい。
きっと金銭で何かを購入することとまた違った感覚を得ることができるだろう。

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■そして再びポルトガルより

CDが完成して一段落したのち、プロデューサーのDavid valemtinよりメールが届いた。
完成したアルバムのクオリティに感銘を受けた彼は、ポルトガルで日本のアーティストを招いたライブを毎年開催したいと意欲を見せている。そしてこのイベントをマカオや香港などでも行い、お互いのアーティストにいい影響を与え続けたいと願っているようだ。日本のexperimental musicの平野を、ポルトガル人のDavidは広めたいと願っているようだ。日本、ポルトガル双方のアーティストにとって面白い方向に話は転がり続けている。
生まれた地域、肌の色、性別の違いを超えて、音楽は互いに影響を与え合いながら進化していく。その向こうに何があるのか、私たちはまだ知らずにいる。ただその答えの一つに、experimental musicを創造するー実験的に音楽に入り込んでいくという彼らのやり方があり、それは確実に世界に広がっていっているようだ。





oishiyuライター: 牧野 絢
1987年生まれ。フェリス女学院大学にて音楽制作、即興理論を学び、横浜にてボイスパフォーマーとして活動中。都内や神奈川での即興イベントに多数参加し、自身も横浜中華街にあるart baboo 146にて即興〜エクスペリメンタル系のイベント「BEFORE」を主催。



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