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阿部薫論 速さ(1/3)


アングラシーンに凛然と輝く孤高の天才、阿倍薫の「速さ」「哲学」「快楽」について書いていきます。阿部薫の「速さ」について、三回に分けて書いていこうと思います。

 

阿部薫は常に「速さ」を意識していたようです。

 

___ぼくは誰よりも速くなりたい
   寒さよりも、一人よりも、地球、アンドロメダよりも
   どこにいる、どこにいる 罪は、____

 

これは阿部薫の直筆の文章ですが、恐ろしく字が汚いです。天才はよく、字が汚いと言われますが、その代表的な例と言っていいかも知れません。

 

阿部薫の求めた速さとは?
阿部薫の追悼文や発言、インタビューをまとめた本(阿部薫 1949-1978 文遊社)にこう記載されています。

 

___俺は季節を超えるスピード感を持ちたい___

 

音を一定の時間内に多く出す所謂、早弾きのことでしょうか?
これは推測でしかありませんが、伝わる情報量=速さ、ではないかと考えられます。
阿部薫はインタビュー(1973年4月に、新宿の喫茶店でカセットテープに録音されたものを起こしたもの)でこう話しています。

 

___コルトレーンの「アセンション」とか。ああいう、セシル・テイラーの集団即興みたいなのって、すごいスピードって俺は感じるわけ___

 

___ソプラーニという楽器はさ、おんなじサックスなわけだけどさ、アルトサックスとは違うわけだよ、絶対に。テナーとアルトが違うみたいに。で、僕はさ、アルト以外っていうのを楽器と認めてないわけ。極端に言えば。だからあんなのオモチャだよ___

 

___(テーブルを叩いて)こういう音も全部さ、ひっくるめた上で音って言ってるわけだよ。それでアルトの音がさ、最もスピードがあると言ってるわけだけどさ、―――中略―――絵なんてのはさ、全部つまんないと思う。音のがさ、最もさ、何ていうのかなあ……そのものズバリだからね。―――中略―――たとえば絵描きがいて、『てめえは暇つぶしだ』、『おめえは暇つぶし』、あとはボケカスさ、殺せばいいんだよ。殺されたほうが負け___

 

まずは「速さ」の中にある、「アルトサックスの速さ」について。これは倍音のことではないか、と考えることが出来ます。
人の声にも倍音があります。まずは分かりやすく人の声で説明します。

一口に話し声と言っても、整数次倍音と非整数次倍音というものがあります。
一般的に整数次倍音は、カリスマ性のある声です。即効性がなく、無機質で、長時間聴き続けると疲れる声です。
大きな括りで言うと、西洋音楽は非整数次倍音を排除することを目指した音楽です。
東洋音楽は非整数次倍音の音楽ですから、アジア圏ではフラメンコ、スパニッシュ、又はエキゾチックな楽器が”愛されやすい”と言われているそうです。

 

声に話を戻しましょう。
一般的に非整数次倍音は、カリスマ性がない声です。即効性があり、親しみがあり、疲れさせない声です。カリスマ性がない方が、即効性=親しみがあるわけです。

「速さ」(2/3)に続きます。




 

harumatiライター: 山本 春町
 映像クリエイター/ミュージシャン/ライター
こう見えても文学少年。
下ネタ大好き。変なやつ。
http://harumati.jimdo.com/

― 連載コラム:阿倍薫論 ― ・ 阿部薫論 [はじめに]

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